甲子園に球数制限は必要か?

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私は元高校球児です。そんな私が今一番気になっているスポーツの話題は、
高校野球の球数制限について。
私は賛成派なのか?反対派なのか?というと『反対派』です。
正確には、反対派というよりは慎重派ですかね。

確かに、球児の皆さんの体を守るという観点から見て
『球数制限を設けること』は即効性はあるのかもしれません。
また、国際的な流れからも、避けては通れない道なのかもしれません。

しかし、『球数制限』を設けることが、
本当に投球過多を防ぐ特効薬になるのか?
球数制限が球児の体を守る解決策に成り得るのか?と考えたとき、
有効な手段になるように思えないのです。

また、球数制限を設けることによって生まれる
様々な弊害もあるような気がします。

今回の記事では、
球数制限が投球過多を防ぐための有効な手段になり得ない理由や、
それによって生まれる様々な弊害を挙げ、
最後には私の考えた解決策をご説明したいと思います。

球数制限は本当に投球過多を防ぐために有効なのか?

球数制限を設けることにより、まず考えられるのは、

『待球作戦とカット打法』

相手チームに手強いエースピッチャーがいた場合、
その相手に勝とうと思ったら、当然出てくる発想ですよね。

ツーストライクになるまでは、絶対にバットを振らない。
ツーストライクになったらきわどい球は全てカット。
フルカウントになるまで5球、カットでうまいこと2、3球粘って計8球。
1イニング3人で24球。
一人でもヒットかフォアボールで出塁したら、さらに8球。
1イニングで32球です。
球数を90球に制限したら3回、
100球でも4回もたずに降板することになります。
相手ピッチャーを打ち崩さなくても、
この作戦が上手くはまれば相手投手を降板させられるわけです。

スポーツをしている以上、みんな勝ちたいんです。
別に何も違反しているわけでもないし、
勝つために有効な手段ならみんなやろうとしますよね。

このような作戦が主流になったとします。
1試合で投手を3~4名使わざるを得なくなると、
ベンチ入りできるのが18人の高校野球では、
ピッチャー専業の選手をベンチに3~4名もベンチに入れておく余裕はありません。
降板した投手は降板後も野手として試合に出続けます。
試合に出続ければ、送球としてボールを投げます。
投手専業なら、降板後すぐにアイシングをして肘や肩のケアができますが、
試合に出続ければ、そのケアもできずに、送球し続けることになります。
これは、肩や肘の為に良いと言えるのでしょうか?

確かに投球としての球数は減るでしょうけど、
送球も含めた、1試合あたりに投げる球の数は劇的に減るでしょうか?
しかも、肩や肘のケアも十分にできないまま・・・。

少し話は変わり、大谷翔平選手の二刀流。
今でこそ日本はもちろんアメリカ・MLBでも認められつつありますが、
当初は賛否両論ありましたよね?
反対派の方々が主に主張していた意見はなんでしたか?

「二刀流なんて体がもつはずがない」
「二刀流を続ければいつか怪我をする」

なんて意見が多かったですよね。

高校野球で球数制限を実施すれば、
先にも記載したように、投手専業の選手を何人もベンチに入れておく余裕は無いため、
チームに何名かは、野手(打者)としての練習に加え、
投手の練習もしなければいけないわけです。
試合で球数を制限したところで、
そこに至るまでの練習で球数を投げなければいけなくなったら同じですよね。

大谷選手ほどの肉体・才能をもった選手でさえ
つぶれると危惧されるほど過酷な(実際、大谷選手は右肘にメスを入れました)二刀流を、
高校生に強いることになる。
それこそ、球数だけでなく、球数以上の負担を球児に強いることにはならないでしょうか?

投球過多を防げば球児の体を守れるのか?

日本より球数制限が厳しいアメリカで、若年層の肩や肘の故障は減っているのか?
というと、実は、増えているのです。

確かに、

「年間100イニング以上投げた子が腕を痛める確率は100イニング未満の子の3.5倍である」

という調査結果もあるようですが、

逆に、

「アメリカで著名な整形外科医がトミー・ジョン手術を執刀した高校生の数は20年前の年間1、2人から80、90人に急増している」

という報告もあります。

つまり、投球過多が肩や肘の故障の原因であるという科学的根拠はないのです。
また、一般的に投球数の目安とされる「100球」にしても、
「キリがいいから」程度のもので科学的根拠はありません。
おそらく、1イニング10~15球でおさめれば、
クオリティスタート(先発投手が6イニング以上を投げ、かつ3自責点以内に抑えること)の
投球回数=6回をクリアできる現実的な球数が100球というくらいのものでしょう。

このように、投球数と、肩・肘の故障の関係については、
「おそらくそうであろう」レベルであり、科学的根拠はないのです。

球数制限によって「球数を投げること=悪」となることへの懸念

球数制限をすることにより「球数を投げること=悪」になってしまうと、
それによる弊害が出ることも考えられます。
こんな記事を見つけました。

高校の投球数制限で問題は解決するのか? 野球の専門医が危惧する単純化(大島和人) - Yahoo!ニュース
今夏の甲子園大会では「投球数制限」を主張する発信を多く目にした。しかし肩肘の故障は障害の一部で、小学生年代からの長く幅広い取り組みは必須だ。また「制限」は自己決定というスポーツの新しい潮流に反する。

この記事の中の、「投げさせなさ過ぎるリスク」の部分は、個人的に面白いと思いました。
これこそ、

「球数を投げること=悪」

となることの弊害ではないでしょうか?

練習で30~50球しか投げていないのに、試合で100球を投げようとしても無理ですよね。
100球を全力で(全力に近い力で)投げる練習をしていないのに、
試合でいきなり100球も投げようとすれば、
フォームは崩れ、余計、肩や肘に負担がかかることになります。

100球投げるための体力を付けるためには、100球以上の投げ込みが必要。
これは、人間の体の成長の仕組みを考えても当たり前の事です。
筋トレで体を鍛えようとするとき最も重要視することは「超回復」です。
「超回復」とは、人間の体に刺激を与えると、
その刺激に耐えようとし、より体を強くするしくみのこと。
少しずつトレーニングの強度を上げていき、
この超回復を繰り返すことにより、
体はだんだん強くなっていきます。

つまり、試合で100球を投げられる体力、肉体を作ろうと思えば、
練習では100球以上の投げ込みは必要なんです。

球数を投げることが悪のようになってしまい、
練習でも100球を投げないことが当たり前になってくると、
今度は100球以下に球数制限をしたところで、
100球以下でも肩や肘を壊す投手が続出し、
今度は80球、70球・・・と、
どんどん球数を制限しなくてはいけなくなっていってしまうのではないか?
という懸念が拭えません。

球数制限を設けることによる弊害

次は、球数制限を設けることによる弊害についてですが、大きく分けると以下の2つです。

私立の強豪校に圧倒的に有利になる

先にも記載したように、球数制限を設けると、1チームにつき少なくとも3~4名。
できれば5~6名は投手を揃えなければいけなくなります。
私立の強豪校なら可能かもしれませんが、全国の高校の野球部に、
そんな人材を確保する余裕はありません。
球数制限を設けることにより、私立の強豪校が圧倒的に有利になってしまうのです。

私が所属していた野球部は、公立の進学校で、
決して強豪校ではありませんでした。
3年生時に野球部に残った部員は8名。ひとつ上の代は6名。
そんな状況でも、夢の甲子園に向けて必死で練習していました。
そんな状況で高校野球を続けた経験があります。
そんな状況でも、当時は、本気で甲子園を目指していました。
そして、当時、そんな辛い状況でも頑張ってきた事が自信になり、
その後の人生で、辛いときにも頑張ってこれたと思っています。
私のように夢を持って野球を頑張る高校球児の気持ちはどうなるのでしょうか?
公立高校でも頑張って強豪校に一泡吹かせてやろうという希望は、
球数制限によって、打ち砕かれやしませんか?

公立校でも、東京や大阪のような人口の多い地域ならまだいいかもしれません。
地方の公立校は、球数制限なんてされたらたまったものではありません。
選手層の薄い公立校が、万が一試合に勝っても、投手を使い果たして、
次の試合を棄権せざるを得ないなんて事が起こりえはしませんか?
ただでさえ、少子高齢化で野球人口も減ってきており、
部員を9名集めることすら難しい高校さえあります。
このような高校は、希望を持つどころか、
球数制限によって大会にすら参加できないなんてことは起こりえませんか?

球数制限に関しては、DeNAの筒香選手の提言が話題となっています。
確かに彼の言っている事は一面だけ見れば正しいです。
しかし、彼も私立の強豪校(横浜高校)出身。
そして、野球のエリートです。
私のような、そして、大多数の高校球児のような、
高校で燃え尽きたい(燃え尽きざるを得ない)球児の気持ちが分かるでしょうか?
彼がその辺りまで考えているのであれば、その辺りの意見も聞いてみたいですね。

ひとつ勘違いして欲しくないのは、筒香選手の提言や、
新潟の野球連盟の事を批判するつもりはありません。
むしろ、腰の重たい高野連を動かした事実は大きいです。
もしかしたら、筒香選手も新潟の野球連盟も、
すぐに球数制限を行おうとまでは思ってなかったかもしれません。
腰の重たい高野連を動かすためには、
これくらい極端な強引な方法を用いるしかなかったとの考えだったら。
そこまで考えての今回の提言や行動であれば、
(筒香選手の言葉を拝借して)筒香選手や新潟の野球連盟の方々に敬意を表したいと思います。

高校野球はプロを目指すような一部のエリートの為だけににあるのではありません。
プロ育成集団ではありません。大半の高校球児はプロには進めないのです。
高校球児の多くは、甲子園が最終目標で、
甲子園を目指して完全燃焼したいと考えていることも事実です。
このように、甲子園が最大の目標として頑張っている高校球児がいることも忘れてはいけません。

試合のテンポ・リズムが悪くなり、過密日程により拍車がかかる

投球過多と同じくらい深刻なのが、甲子園の過密日程。
球数制限を設けたことで、この過密日程にさらに拍車がかかりはしないか?ということ。

球数制限が実施されれば、細かな継投策が増えてくると予想されます。継投が多くなれば試合時間は長くなります。試合時間が長くなれば1日に消化できる試合数は減ります。雨で順延なども考えると、日程に余裕はありません。
甲子園は夏休み中に終わらせなければなりませんので、こんな事が重なったら、せっかく球児の負担減を考えて作った準々決勝翌日の休養日や、今年から導入される準決勝翌日の休養日も試合を行わないと日程が消化できないなんてことになりはしないだろうか?

否定ばかりしても話は進まないので、球数制限に変わる高校球児の体を守るための解決策を私なりにいくつか考えたので、ご紹介しましょう。

解決策その1『日程の緩和』

解決策の一つ目は日程の緩和です。日程を緩和するために考えられる具合策としては以下の3つです。

開催期間を延ばす

例年は、8月5日頃から、15日間で行われるのが通例。
2018年の100回大会は、決勝まで勝ち上がった金足農業の吉田輝星投手は6試合投げています。15日間で6試合2日か3日に1回は投げている計算になりますね。
これを開催期間を倍の30日間にしたらどうでしょう?そうすれば、30日間で6試合。つまり5日に1回。これなら中4日となるので、投手にかかる負担はぐっと減ります。

ただし、この案には問題があります。北海道や東北の学校は、夏休み期間が短いのですよね。
8月下旬には2学期が始まってしまうので、そこまでに30日間を確保しようと思うと夏休みに入ったらすぐに大会を開始しなければなりませんね。
そうなると、地方予選はGWくらいから時間をかけて行う必要が出てくると思います。

多少の変化は必要ですが、決して無理な方法ではないのではないでしょうか?

他球場の使用

甲子園球場のみで試合を行うため過密日程になるのではないでしょうか?
甲子園球場だけでなく、他の球場も使用したらどうでしょう?

サッカーを例に挙げますが、高校サッカーも複数会場を使用して行われていますよね?

せっかく代表になったのに、甲子園球場で試合ができないという不公平をなくすため1回戦は全て甲子園球場でおこない、2回戦以降は近隣球場も複数使用し、日程に余裕を持たせ開催。準決勝、決勝は再度甲子園球場に戻ってきて開催する。
これなら、投手への負担も減らせるのではないでしょうか?

甲子園球場でのみ試合を行っているから、全試合を余すことなく放送できているという側面もあるのかもしれません。複数球場で行うと、テレビクルーもその数だけ必要になりますし、取材する側もそのぶんだけ記者を派遣しなければいけませんし。
しかし、テレビ放送・新聞取材などの労力より、球児の体・将来の方が大切ですよね?

出場校を減らす

2018年大会は史上最多の56校が出場しています。これを32校程度まで減らしてはどうか?ということ。
32校なら、決勝まで勝ち上がっても4試合。今まで通り15~16日で行ったとしても、4日に1試合。中3日は確保できますよね。

しかし、これはちょっと現実的ではないですかね。やはり、甲子園の魅力は自分の出身地や、住んでいる県の代表校を応援したいという部分ですので、やはり、最低でも各県1代表は出場してもらわないと困りますからね。

解決策その2『回数を減らす』

解決策の2つめは回数を減らすということ。9回までやらずに7回までにするのです。

例えば、サッカーもプロレベルでは45分ハーフの90分。一方、高校サッカーは40分ハーフの80分です。
同じ野球でも、小学生や中学生は7回までです。

高校野球でも7回まででいいのではないでしょうか?1回の平均投球数が10~15球だとしたら、7回までにすれば、20~30球減らすことができます。リリーフ投手1~2名ぶん球数を減らせますよね。

解決策その3『金属バットの使用禁止』

解決策3つめは「金属バットの使用を禁止する」です。これは、個人的には、最も効果的かつデメリットも少ない案だと思います。

投手の負担が大きい事が問題になっているなら、投手に有利なルールを作ればいいのです。
金属バットと木製バットでは全く違う道具と言っても過言ではないほど大きな違いがあります。

詳しい話をし始めると長くなるので、簡単な例を挙げると、
「とんねるずのスポーツ王は俺だ」というTV番組でやっているリアル野球盤というゲーム。
とんねるずの石橋氏が率いるとんねるずチームと、
元メジャーリーガーや、現役メジャーリーガー、
プロ野球の一流選手などが野球盤のようなルールで戦うのですが、
とんねるずチームは金属バット、プロチームは木製バットというハンデがついています。

このゲームでとんねるずチームの助っ人として参加しているのが、
帝京高校出身で巨人、近鉄などで活躍した元プロ野球選手の吉岡雄二氏。
プロ野球では盤石なレギュラーとしては活躍できず、
お世辞にも一流選手とは言い難い成績の選手でした。
しかし、リアル野球盤ではバンバン打ちまくります。

一方、木製バットを使用するプロチームの選手たちはなかなか打てません。
そして、プロチームが負けそうになると・・・、
ここからはプロチームも金属バットを使用して・・・という展開になります。
すると、プロチームがバンバン打ち始めて、プロが逆転勝利!!
こんな展開を見たことありませんか?

一流のプロ野球選手、それもメジャーリーガー、
言ったら、世界のトップ中のトップの選手達ですらですよ?
それほど、木製バットと金属バットは違うんです。

木製バットなら打ち取れていたような球でも、
金属バットなら内野の頭を越えたり、
パワーのあるバッターなら、スタンドまで届かせるなんてこともあります。

金属バットの使用を禁止してヒットやホームランが出にくい状況になれば、投手の球数は絶対に減ります。

そもそも、高校野球はなんで金属バットを使用するのでしょうか?
だって、金属バットで実績を残してプロに入った選手が、
木製バットへの対応が上手くできず、プロでは実績を残せず、
早々と姿を消した、若くして引退したなんて話よく聞きませんか?
選手の将来を考えるのなら、早いうちから木製バットに慣れさせる方がいいと思いませんか?

例えば、テニスでもゴルフでも、
体が小さい小学生や中学生ぐらいまではキッズ用ラケットとか、
キッズ用クラブを使用したりしますけど、
高校生くらいになったら、普通にプロと同じ規格の道具を使用しますよね?
なぜ、野球だけは、高校生とプロで規格が全く別の道具を使う必要があるのでしょうか?

まとめると、金属バットを使用禁止にすれば、
ヒットやホームランが出にくくなるので、投手の球数は減ります。
しかも、部員数の多い私立校が得だとか、そんなことも起こりません。
全ての高校、選手が同一の条件で行うわけですから。

そして、将来プロを目指すようなエリート球児も、
早いうちから木製バットになれることができ、
プロに進んでからもバットの違いに四苦八苦する必要はありません。
全ての球児にメリットのある(デメリットのない)方法だと思いませんか?

最後に

もちろん、球児が体を壊すような過酷な投球はいけないと思います。
一大会で一人の投手が4連投、5連投もして、
800球も900球も投げるのはやり過ぎだと思います。
あまりにもこのような事態が頻発するようであれば、球数制限もやむを得ないと思います。

ただ、国際大会などで採用されているような球数制限を高校野球でも行うのは、
先にも記載したように、地方の公立高校など部員の少ない高校にはあまりにも酷です。

そして、私が示したように、球数制限以外にも、球数を減らせそうな案はいくつかあります。
そういった事に手を付ける前に、球数制限を実施するのはおかしいのではないでしょうか?

投球過多が問題だから、球数を制限すればいい!
というのは、あまりにも短絡的な発想ではないでしょうか?

球数制限は、多くの高校球児の夢や希望を奪うかもしれないルール。
それでもあなたは、球児の体のためなら、すぐにでも導入するべきだ!と言えますか?

どちらにせよ、この球数制限問題は、
高校野球の在り方を根底から覆してしまう可能性のある大きな問題ですので、
しっかりと議論をして良い方向に向かって欲しいと思います。

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